ファルネシルトランスフェラーゼ(FTase)はG蛋白質など機能性蛋白質をファルネシル化する酵素で、本酵素の阻害物質は新規抗癌剤の有力な候補として近年注目されつつある。本研究では希少細菌である粘液細菌を材料にして新規FTase阻害物質を探索し、化学的・生化学的研究を行うことを目標としているが、まず第一段階として、現在汎用されているラジオアイソトープ法に代替しうる安全ユニークな二種のアッセイ法を立案し、その有用性について検討した。 1.担子菌酵母を用いた生物検定法: 担子菌酵母の一種Tremella mesentericaの有性世代に見られる接合管は性フェロモンにより誘導される。その本体がファルネシル化ペプチドであることに着目し、接合管の誘導活性をFTase活性の指標にしたアッセイ系を確立した。即ち、本菌のA型株を検体存在下で培養後、培養液中に分泌される性フェロモンの量的変化を同菌a型株の接合管伸長度の観察により検出し、接合管誘導の阻害活性を観察した。これまでに土壌から分離した粘液細菌の培養液約150検体をアッセイしたが、現在のところ活性のある検体は見つかっていない。本方法については今後、感度・定量性の向上、検体中の抗菌物質の影響の低減などの問題を解決する必要がある。 2.非アイソトープin vitro酵素阻害検定法: 酵母のFTase大量発現変異株からFTaseを抽出・精製し、得られた酵素と基質(ファルネシルピロリン酸、合成ペブチド)を用いて酵素反応を行った後、反応混合物をそのままLC-MSで分析する条件を樹立した。この方法により生成物であるファルネシル化ペプチドの検出は1pmolレベルまで可能となり、簡便かつ安全で高感度に酵素阻害アッセイができることが解った。今後、本方法を用いて上記粘液細菌培養液のスクリーニングを行う予定である。
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