研究概要 |
目的:木材の音弾性現象を把握すること目的として,木材の繊維・半径・接線の各方向に圧縮力を与え,同時に負荷方向に沿って伝播させた超音波縦波の音速の変化について,実験方法の検討・確立ならびに測定を試みた。 実験:試料としてベイヒバ,ヒノキ,ブナ,タモ,ホオ,スプル-ス,ヘムロックの7樹種を用いた。試験片は気乾状態のもので寸法が6x3x3cmの直方体である。1樹種につき10-15体を用意した。圧縮力は試験片の長軸に平行に材料試験機を用いて加えた。圧縮応力下における超音波音速は本補助金により購入したシングアラウンド式音速測定装置を用いて測定した。圧電型の超音波探触子を用い,超音波の伝播方向は負荷の方向に一致させた。なお,この探触子を圧縮力から保護するために新たに実験技術として考案したジュラルミン製のホルダーを作製,使用した。音速はこのホルダーの影響と負荷中の試験片長の変化を逐次補正して求めた。 結果:現時点で得られている結果の概略は以下のようである。 1.木材における音弾性現象の存在を確認した。 2.音速の変化の仕方は,木材の種類と方向により,応力の増大とともに(1)はじめ増大し,やがて減少に転じる場合と,(2)はじめから減少する場合に大別できた。このことは,金属材料の一般的傾向と異なり,木材に特徴的な現象と考えられる。さらに木材の音弾性現象と細胞組織構造との関連性を示唆するものと考えられる。 3.初期応力域における音速と応力,および大変形領域における音速とひずみとの間には,比較的良好な直線関係が認められた。 4.木材の音弾性定数は繊維方向より半径・接線方向で大きく,また金属材料のそれよりも大きかった。このことは,応力の変化に対して音速が敏感に反応することを意味し,木材の応力測定に対する音弾性の適用の可能性を示唆するものである。 問題点と今後の展望:ここで得られた音弾性定数はバラツキが大きいこと,また,音速と応力が比例関係を示す領域が極めて小さい初期応力域に限られるなど,現段階で直ちに応力測定に結びつけるのは困難である。また,実際問題として,超音波の伝播方向は今回の実験のように応力軸に平行な場合よりも垂直な場合のほうが有用であると予想される。このため,他の超音波の種類・モードによる音弾性現象をさらに詳細に把握する必要があると考える。
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