研究概要 |
木材(ブナ・スプル-ス)の繊維方向に圧縮および引張力を与え,同時に超音波縦波・横波を負荷方向とは垂直(半径方向)に伝播させて音弾性実験を行い,応力-ひずみ-音速の関係を調べた。その結果,横波を用いた実験では,圧縮応力の増大とともに音速は減少したが,引張応力の増大に対しては,音速ははじめ増加し,その後減少に転じた。この現象は樹種に関わらず得られた。一方,縦波を用いた実験では,例えば引張応力下では応力の増大とともに音速は増加し,圧縮応力下では現象が樹種によって異なるなど,横波を用いた場合とは異なる結果が得られた。このときの応力と音速変化との関係より音弾性定数を求めたところ,これまでに得られた他のモードの値より小さかったが,同モードによる金属材料のそれよりも1桁大きかった。 次に,このような木材の音弾性特性を利用して,木材(板材)の曲げ応力分布の測定を試みた。試験体は気乾状態の板状で,長さ・高さ・厚さの各方向が繊維・接線・半径方向に一致した板目板である。試験体の長軸方向の中央部にスパンを設け,試験体の両端に重錘を載荷して支点間に曲げモーメントを作用させた。また,試験体スパン中央部で板厚(半径)方向に超音波(縦波・横波)を伝播させ,高さ(梁背)方向の所定の各位置で載荷前後の音速差及び初期音速に対する比の分布を求めた。これらと上記で求めた音弾性定数により応カ値を求めた。一方,音弾性法による曲げ応力推定値の比較検討のため,音速測定位置に沿う各位置にひずみゲージを試験体の長軸方向に一致させて貼付し,これらのひずみ測定値より曲げ応力の分布を求めた。 その結果,初期音速は位置により異なり,概して中心(中立軸)付近の音速が他に比べて比較的大きかった。これは,超音波の伝播方向(半径方向)と年輪との直交度が中心付近で最もよいことに関係している可能性がある。また,スプル-ス材の初期音速はブナ材よりも全体的に大きかった。各測定位置での音速は負荷の大きさにより変化した。例えばスプル-ス材で横波を用いた測定では,音速の変化割合は材の中心より上側の各位置では正で,下側の各位置では負であった。上記の音弾性特性に関する結果より,材の上側では引張応力域,下側では圧縮応力域であることが判明した。これらの値は負荷が大きくなるほど,また,中心から離れるほど概略において大きくなった。これらを対応する位置の音弾性定数で除すと応力が求められた。同時にひずみゲージより求めた応力と材料力学により求めた応力の値を比較すると,3種の方法により求めた応力値は大略において一致しており,音弾性法による応力推定値がほぼ妥当な結果を得ていることが裏付けられる。以上の結果は,木材の応力測定に関する音弾性法の適用の可能性を示唆するものであるが,この方法の実用化のためには木材の音弾性特性に関する更なる詳細把握と測定技術上の諸問題の解決が望まれる。
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