研究概要 |
植物の成長に対する強磁場の影響を検討するために,強磁場環境下でシロイヌナズナを生育させ,その成長を対照区と比較した.シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana,ecotype Landsberg erecta)の種子を吸水させ,4°Cで低温処理した後に,22°C,暗所で6日間,4T(テスラ)の強磁場処理を行った.強磁場処理は,本学の超伝導強磁場発生装置の中に寒天に播種した種子を入れることによって行った.その結果,処理1日後における強磁場処理区の発芽率は,対照区に比較して高くなることがわかった.さらに,処理3日後の強磁場処理区の植物体では胚軸および根の長さが長くなる現象が見いだされた.処理6日目には,強磁場処理区の植物の胚軸および根の長さは,対照区のものとほとんど差がなかったが,これは成長が飽和に達したためと考えられた.これらの結果から,強磁場はシロイヌナズナの種子の発芽や芽生えの胚軸および根の伸長を有意に促進することが示唆された. また,強磁場が微生物の栄養増殖に及ぼすか否かについて調べるために,原核微生物としては,大腸菌(Escherichia coli),枯草菌(Bacillus subtilis)を,真核微生物としては酵母(Saccharomyces cerevisiae)を用いて実験を行った。大腸菌,枯草菌を各々LB液体培地中で30°Cで培養し,対数増殖後期に稀釈してLBプレートにまき,4Tの強磁場中に30°Cで一晩おき,磁場無処理区のものと比較した.その結果,大腸菌,枯草菌とも生じたコロニーの数およびそれらの大きさには対照区と強磁場処理区の間で有為な差は認められなかった。酵母も大腸菌・枯草菌と同様に若い培養を稀釈し,YPDプレートにまき,4Tの強磁場を二晩処理したが,対照区と強磁場処理区の間に有為な差が認められなかった。したがって,対象とした微生物3種においては,上記の培養条件における栄養増殖に対する4Tの強磁場の影響はないものと考えられる。 今後,植物の種子発芽と伸長に対する強磁場の作用を詳細に解析すると同時に,植物の生殖成長および原核微生物の栄養増殖以外の細胞機能に対する磁場の影響を調べる予定である.
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