研究概要 |
哺乳動物卵子への遺伝子導入の効率化を計るために核内インジェクション法に変わる方法のひとつとして、主に塩基性アミノ酸から構成され、高分子物質を細胞質から核内へと移行させるのに必須と考えられている核内移行シグナルを利用した細胞質インジェクション法が考えられている。最近、ウニ卵子においてSV40ウイルスの初期遺伝子産物であるT抗原蛋白の核移行シグナルKKKRKペプチドに遺伝子を連結したものをウニ卵子の細胞質内に注入することによって、注入遺伝子は高率に核内へ誘導されることが報告された。本研究プロジェクトにおいて、これまでにlacZ遺伝子を含むpmiwZ発現プラスミドを直鎖状にしたものとポリLリジン(K(n))とを種々の混合比(ポリLリジン:DNA;1:1,1:2,2:1)で結合させ、それをマウス前核期卵子の細胞質に注入した結果、いずれの混合比でも核内への移行並びにlacZの発現高率は非常に低いものであった。そこで本年度は、先ずマウス前核期卵子において核内への移行を効率的に誘導する核移行シグナルについて検討した。その結果、nucleoplasminに代表される双節型核移行シグナル(CGGKRPAATKKAGQAKKKKVG)は前核への移行を全く誘導しないが、一方単節型核移行シグナルであるT抗原シグナルは前核に効率よく移行すること、および転写因子であるNF-kappaBのp65サブユニット内のシグナル(KRKR)は前核期卵子の細胞周期のG1期に特異的に効率よく前核内に移行することが明かとなった。そこでこれら単節型シグナルペプチドのカルボキシル末端をアミド化し、それとpmiwZとを結合させた後、前核期卵子の細胞質に注入した。その結果、ペプチドとDNAとの結合効率をポリアクリルアミドゲル内での未結合DNAとの移動度の差(ゲルシフト)から判定したところ、いずれのペプチドにおいても非常に低い結果に終わった。しかし、結合させたDNAを前核期卵子に注入した結果、注入遺伝子は量的に非常に少ないものの温度依存的に核内へ導入されることが明らかにされた。
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