研究概要 |
卵巣の果粒膜細胞の分化過程で発現するガングリオシドとその糖鎖結合タンパク質の細胞接着における機能について追究した。検討した課題は、(1)結合タンパク質と糖鎖との相互作用の解析、および(2)ガングリオシドの合成調節機構である。まず、(1)について、著者がこれまで行ってきた方法にしたがって、糖鎖の誘導体を放射性物質で標識し培養細胞との結合に及ぼす各種ムコ多糖類の影響を調べた。その中で最も強い阻害効果をもつのが、ヘパリンとヘパラン硫酸(μg/mlで有効)で、その他のムコ多糖類は阻害効果が低いことが判明した。特に、ヘパラン硫酸はブタ濾胞液中に多量に存在するので(mg/mlオーダー)、成熟濾胞の卵腔側の果粒膜細胞では、ガングリオシドと結合タンパク質の相互作用はヘパラン硫酸によって弱められていることが示唆される。次に、(2)であるが、ガングリオシドGM1の合成を調節する因子の検討を行った。方法は、放射性のガラクトースを用いたde novo合成と、GM1のリガンド(コレラ毒素のBサブユニット)を放射性物質で標識し、その結合試験により細胞表面のGM1の量を概算するという2つの方法を用いた。その結果、(a)フォルスコリンはガングリオシド合成を促すというFSHと同じ効果を示す、(b)フォルボルエステルは効果を示さない、(c)タモキシフェンはガングオシド合成を阻害する。など果粒膜細胞でのガングリオシド合成がcAMPシグナルでしかもアロマターゼの活性化が必要であることが判明した。最も興味あることは、チロシンキナーゼ受容体ファミリー(EGF,IGF-I,インスリン)によってこのガングリオシドの合成を促進することである。このことは、細胞分化が進行するに伴い発現してくるガングリオシドの合成が、チロシンキナーゼ受容体ファミリーによって修飾を受けているということを強く示唆するものである。
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