ディファレンシャルディスプレイ法を用いて、雌性生殖をする3倍性(3n)と通常の有性生殖をする2倍体(2n)ギンブナの各卵巣で発現している遺伝子(mRNA)の相違を調べた。各卵巣由来のmRNAからオリゴdT(3種類のアンカープライマー)を用いて逆転写によりcDNAを合成し、それを鋳型として33種類の任意プライマーと3種類のアンカープライマーの組み合わせ(計78組)でPCRを行った。ゲル電気泳動分離後、顕著に発現量差が認められた41ヶの断片を回収し、29ヶについてクローニングした。各断片あたり複数のクローンの塩基配列を決定し、41ヶの分子を得た。そのうち6ヶが既知の蛋白の配列と相同であった。配列の特徴から有力と考えられた13ヶの分子について非放射性プローブを作製し、RNAドットプロットハイブリダイゼーションを行ったが、卵巣での倍数性特異的な発現は確認できなかった。方法論を検討し、今後も雌性発生に関連する遺伝子を探索する予定である。 各種フナの核ゲノムにおける2種類の反復DNAの塩基配列(既報;Hi-aとHi-b)を比較した。キンギョとの間で若干の相違がみられたが、倍数性を特定するような特徴はみられなかった。また、3nギンブナのmtDNAの全塩基配列(既報)と各種フナのmtDNAのD-ループ全体を含む領域の塩基配列に基づいてプライマーを設定し、国内3地域(神奈川県渋田川、滋賀県琵琶湖、千葉県印旗沼)からのフナ計100個体について、D-ループの超可変領域(約325bP)をPCR増幅した。ダイレクトシーケンス法によりその一次構造を決定し、系統樹を作製した。その結果、多倍数性ギンブナは複数の2nギンブナを母系祖先とする混成クローン集団とキンギョの祖先を母系とする集団の2系統に大別された。今後、さらに国内各地のフナを調べ日本の雌性発生多倍数性ギンブナの起源を特定する予定である。
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