有用遺伝子を導入したトランスジェニック寄生虫を作出し、宿主体内の特定部位で安定して有用物質の産生を行わせ、遺伝子治療に代替させることが本研究の究極の目的である。住血吸虫は、虫卵関連遺伝子を優先的に発現させ大量の虫卵を産み続けることから、血管内で有用物質を産生させるトランスジェニック寄生虫の最適のモデルとなる。これを用いて、(1)虫卵関連遺伝子に関する検討及び(2)遺伝子導入を試みる為の住血吸虫細胞の培養系の確立に関する検討を行い、本年度は以下の成績を得た。 1.有用遺伝子は虫卵関連遺伝子の下流側に導入する為、虫卵関連遺伝子の発現調節機構に関与する遺伝子構造の解析に努めた。まず我々が報告した34kDa卵殻遺伝子のcDNAをプローブとしてクローニングを行い、新規のcDNAクローン(3グループに分類できる合計5種)を得た。2.各クローンの塩基配列からプライマーを作製しRT-PCRを行い、卵殻遺伝子はいずれも雌成虫で安定して多量に発現することを明らかにした。3.ゲノムDNAのサザンブロッティングを行い、卵殻遺伝子は多コピー遺伝子ではないことを明らかにした。上流に転写活性の極めて高い調節配列が存在することが示唆された。4.cDNAをプローブとしてゲノムDNAクローンを得た。塩基配列を解読し、上流部分に存在する卵殻遺伝子の発現調節配列について比較解析中である。5.終宿主体内で急速に発育する14日齢幼虫から培養の為の細胞を調整した。特定の形態を持つ細胞群が集塊を形成し6箇月以上生存し続けることを確認した。トランジェントな遺伝子導入の系に活用し得ることが示唆された。6.スポロシスト(感染貝由来)からも細胞を調整、2箇月以上生存し続けることを確認した。細胞培養を継続中である。
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