研究概要 |
有用遺伝子を導入したトランスジェニック寄生虫を作出し、宿主体内の特定部位で安定して有用物質の産生させ、遺伝子治療の代替とすることが本研究の究極の目的である。住血吸虫は、虫卵関連遺伝子を優先的に発現させて大量の虫卵を産み続けることから、血管内で有用物質を産生させるトランスジェニック寄生虫の最適のモデルとなる。本年度は以下の成績を得た。1.有用遺伝子は虫卵関連遺伝子の下流側に導入する為、虫卵関連遺伝子の発現調節機構に関与する遺伝子構造の解析に努めた。日本住血吸虫・雌成虫ゲノムDNAを調整、EcoRIで処理、卵殻遺伝子(SjP34)・cDNAをプローブとしてサザンブロットを行った。3.4kbのフラグメントとのみハイブリダイズした。雄成虫のゲノムDNAや他の酵素処理の結果とも併せ、SjP34はシングルコピー遺伝子であると判定した。2.3.4kbのEcoRIフラグメントを持つゲノムDNAクローン(SjG)をライブラリーから分離した。全塩基配列を解読した。SjGはSjP34の全コード領域(774bp、イントロンレス)、5'非翻訳領域(2,336bp)および3'非翻訳領域(336bp)を含むことを明らかにした。転写活性が極めて強いと予想される発現調節配列を解析中である。3.SjGをプローブとし、マンソン住血吸虫(近縁種)から、3.2kbのEcoRIフラグメントを持つゲノムDNAクローン(SmG)を得た。塩基配列を解読中である。4.スポロシスト(感染貝由来)の染色体標本に分裂中期像を多数得た。FISH法で遺伝子座位を検討中である。5.スポロシストの細胞はin vitroで2箇月以上、分裂しながら生存することを確認した。トランジェントな遺伝子導入を試みる為の培養細胞は、スポロシストという発育期から調整することが有望であることが明らかとなった。
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