研究概要 |
虚血の際の心室筋エクト-5′-ヌクレオチダーゼ(5′-NT)活性が,外液K^+濃度増加による心室筋細胞の脱分極に依存して増加し,間質のアデノシン産生を促進している可能性を,我々の考案したマイクロダイアリシス法を用いて検討した。[方法]In vivoマイクロダイアリシス法を用いてTyrode液に溶かしたadenosine 5′-monophosphate(AMP)を毎分1μlで潅流しながら,透析液中のアデノシン濃度を高速液体クロマトグラフ法により測定した。[結果]AMPを潅流すると定常状態のアデノシン濃度はAMP濃度依存性に増加し,EC_<50>は107.2μMであった。この増加は5′-NTの阻害剤であるAOPCP(100μM)存在下では認められなかったことより,AMP(100μM)潅流下のアデノシン濃度は心筋の5′-NT活性を反映している。そこで潅流液のK^+濃度を変化(0〜140mM)させたところ,濃度依存的にアデノシン産生が増加した。しかし140mM KClを含む溶液と等浸透圧濃度のsucrose添加では変化がなかった。内向き整流K^+電流(I_<K1>)をブロックするCsCl、BaCl_2(共に20mM)の潅流によってもアデノシン産生が有意に増加した。また,この濃度のCsCl、BaCl2では心室乳頭筋の静止膜電位が有意に脱分極することを微小電極法により確かめた。CsCl、BaCl_2は1mM以下の濃度では,単独ではアデノシン産生に影響を与えなかったが,140mMKClによるアデノシン産生増加を抑制した。しかしながらKClによるアデノシン産生増加が,心室筋細胞の脱分極によるのではなく,交感神経末端の脱分極によりノルアドレナリンの分泌が促進し,α-受容体を介してPKCを活性化した結果である可能性もある。しかしこの可能性は,αブロッカープラゾシン(20μM)存在下でも、140mM KClによるアデノシン産生増加がみられたことから否定された。 以上より,細胞外液K^+濃度の増加あるいはIK_<Kl>のブロックにより心筋の静止膜電位が脱分極すると5′-NTが活性化され,アデノシン産生が増加することが判明した。すなわち急性虚血時にみられる間質K^+濃度の増加が局所アデノシン濃度増加の一因となっている可能性が示唆される。
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