癌抑制遺伝子p53の産物は、DNAに損傷が加わるとそのシグナルを受けて細胞内に蓄積し、様々な遺伝子の転写を誘導することが分かっている。しかし、p53蛋白の転写活性の制御機構は今だ明確にされていない。本研究は、酵母発現系を用いて、p53の転写活性を抑制する蛋白を見いだし、その生化学的性質を解析することを目的とした。本年度の成果を要約すると: 1)ウラシル要求性酵母株の樹立:cDNAライブラリーを構築したpYEUra3ベクターは、Ura3遺伝子を選択マーカーとしてを持っているため、ホストである酵母細胞yIG397細胞をウラシル要求株へ改変した(yIG397/wtp53/ura-と命名)。yIG397/wtp53/ura-細胞はura(+)培地上にて白色のコロニーを形成した。 2)変異型p53遺伝子の導入:yIG397/wtp53/ura-細胞に変異型p53遺伝子を導入後、トランスフォームした細胞をウラシル(-)培地で選別したところ、赤色コロニーを得た。変異型p53は、酵母内で正常型p53の働きをドミナントネガティブに抑制していることが分かり、本システムが作動することが確認できた。 3)p53転写機能を阻害するcDNAの選別:ヒトcDNAライブラリーを導入後、ウラシル(-)培地で選別したところ、約150個の赤色コロニーを得た。これらのクローンからプラスミドを回収し、再びyIG397/wtp53/ura-細胞に導入したところ、約90%のクローンにおいて白色のコロニーを形成した。つまり、初回のスクリーニングにおいて、酵母細胞内でp53遺伝子、p53responsive promoter、ADE2遺伝子のいずれかに変異が生じ、cDNAの導入とは関係なく、レポーターシステムに異常が生じたものが大半であることが分かった。現在、二次スクリーニングで陽性となったクローンの特性解析を実施中である。
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