研究概要 |
細胞外マトリックス(ECM)分解酵素であるマトリックスメタロプロテアーゼ(MMPs)には、分泌型MMPと細胞膜貫通型MMP(MT-MMPs)が知られている。本研究では、細胞膜上におけるECM分解に主役を演じると考えられるMT1,2,3-MMPsの生化学的性質とヒト病的組織における発現を調べるとともに、MT1-MMP遺伝子導入腫瘍細胞の転移能を解析した。得られた主な結果は、以下の如くである。 1.細胞膜貫通ドメインを欠失したΔMT1-MMPを恒常的に発現する細胞株を樹立し、その培養液からΔMT1-MMPを精製した。その結果、ΔMT1-MMPはゼラチン、プロテオグリカン、フィブロネクチン、ヴィトロネクチンの他、I,II,III型コラーゲンを分解することが明らかとなった。 2.MT1-MMPは、ヒト変形性関節症の関節軟骨で発現され、軟骨細胞による発現は軟骨の破壊程度と正の相関を示した。また、MT1-MMPを発現する軟骨細胞の細胞膜成分は潜在型MMP-2を活性化した。 3.ヒト乳癌組織においては、MT1-MMPは検索した全ての症例で強く発現され、潜在型MMP-2活性化と相関した。一方、MT2-MMPは25%の症例で陽性であり、MT3-MMPの発現は検出されなかった。 4.MT1-MMP遺伝子を腫瘍細胞に導入し、マウス尾静脈内注入による転移能の変化を検討したところ、遺伝子導入細胞は血液中の潜在型MMP-2を活性化することにより転移能昂進を示した。 以上のデータから、癌や炎症性組織において発現されたMT1-MMPは、潜在型MMP-2の活性化と自分自身のECM分解活性により、細胞膜上でのECM分解を通して組織破壊に関与することが示唆された。現在、MT2,3-MMPsの生化学的性質についても解析を進めている。
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