クロイツフェルト・ヤコブ病に代表されるプリオン病の病原因子は、蛋白分解酵素抵抗性の異常型プリオン(PrP^<res>)と考えられており、これが中枢神経で産生されている正常型プリオン(PrP^c)と接触してこれをPrP^<res>に変換し発症するとの仮説がある。我々はPrP欠損(PrP^<-/->)マウスにPrP^<res>を接種しても発症しない事を確認し、仮説を支持する結果を得た。しかしPrP^<res>接種PrP^<-/->マウスの脳乳剤を野生型マウス脳に接種したところ、PrP^<res>の蓄積がない為、接種後25週迄に脳内の感染価は消失しマウスは発症しなかったが、29週になって再び感染価が出現した。これはPrP^<res>以外に感染性に関わる他の因子の存在が疑われた。 この現象の再現性を検証する為に、PrP^<-/->マウスをヘテロ欠損(PrP^<-/->)マウスの交配により作出し(遺伝子型はpolymerase chain reactionにより識別)、PrP^<res>接種PrP^<-/->マウス脳を25〜112週にわたり剔出し、その乳剤を(一部60℃、80℃30分加熱)野生型マウスに接種し感染性の有無を検討した。接種材料は数匹の脳をプールしたもの及び個々の脳とし、陽性対照はPrP^<res>接種PrP^<-/->マウス脳を用いた。この結果陽性対照例(接種後29週)は非加熱、60℃加熱PrP^<res>接種例で全例発症(前者:120〜150日、後者:139〜175日)したが(80℃加熱材料は240日まで未発症)、PrP^<res>接種PrP^<-/->マウス脳では接種後240日現未発症である。但し、接種後94週のPrP^<-/->マウス脳(9匹中1例)に感染性が認められたので現在その再現性を検討中である。 本研究の観察期間はまだ短く、少なくとも1年以上の期間を要するので、次年度に最終結論が得られる事になるので、今迄に得られた途中経過について記載した。
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