研究概要 |
開胸犬を使用した、前下行枝冠動脈領域の虚血再潅流実験により以下の項目について明瞭な結論が出せた。(1)BMIPP(側鎖脂肪酸)は、虚血の程度に応じて心筋集積度が異なる。それは梗塞部で40%,虚血部で70%程度であり、ATP濃度に依存する。これは壁運動の良悪により区別できるものではない。(2)ミトコンドリアのカルニチンシャトルの阻害剤(Etomoxir)を用いてミトコンドリアの機能を低下させる虚血モデルでは、明らかにBMIPPのextractionの低下が認められた。また、ミトコンドリアが関係するα,β酸化による代謝産物は、減少し、back diffusionは増加した。ミトコンドリア機能を、BMIPPが敏感に反映することを示す。(3)虚血の程度を変化させ、乳酸産生度とBMIPPのBack diffusion(細胞外へそのまま出すshunt)、あるいはミトコンドリア機能そのものを示すfull metaboliteの生成は、前者で正相関、後者で負の相関を示した。これは虚血の程度をBMIPPが示すことを意味する。(4)さらにラットの虚血再潅流後の長期フォロー例を、ミトコンドリア代謝酵素と組織所見をマッチさせて確認した。血流とBMIPPのmismatchの認められるところでは、succinate dehydrogenase,citrate synthaseは低下したが、梗塞部のmatched areaとは一線を画した。よってこれらの事実より、BMIPPは、ミトコンドリアの膜機能(carnitine shuttle部分)、酸素代謝の酵素、そしてATPのproductionを反映するtracerになり得ることが確認された。実際、臨床的な病態はそれを反映しており、将来ミトコンドリア機能の把握に有望なtracerになり得ると考えられる。
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