左室自由壁の内層・外層別血流を画像的に評価する目的で、放射光を線源にした微小冠動脈造影法のテクニックを用いて心筋貫通枝の描出を行った。高エネルギー物理学研究所において、11頭のビ-グル犬を用いて微小冠動脈造影の実験を行った。麻酔・開胸した犬に、左鎖骨下動脈から左冠動脈前下行枝にバイパス路を作成した。このバイパス路内にヨード系造影剤3mlを注入し、第二および第三対角枝とさらにそれから分岐する心筋貫通枝の選択的造影を行った。X線源にはヨードのK吸収端の直上にエネルギーを持つ33.3keVの単色放射光を用いた。被写体を通過した単色放射光をX線用増感紙に吸収させ、そこから発する蛍光をアバランシェ型ハイビジョンカメラシステムで2〜3x2cmの範囲を毎秒60コマで撮影した。この時の空間分解能はおよそ30μmであった。造影像では、心筋貫通枝に特に注目し、左室壁の内層と外層部における貫通枝の直径および造影剤の濃度の変化を観察した。この時の微小冠動脈造影では直径60μmまでの心筋貫通枝を可視化することができた。直径200μm以上の心筋貫通枝について収縮期と拡張期とを定量的に比較すると、その長さは延長する(145±28%)様子が観察できた。また、これら心筋貫通枝は収縮期においてその血管径は減少し、この減少程度の変化は左室壁の内層部(64±8%)の方が外層部(81±11%)よりも有意に大(P<0.05)であった。さらにまた、7頭の麻酔・開胸犬を用いて、心交感神経を電気刺激した時の左室壁の内層部と外層部の冠血管抵抗の変化を調べた。この外層部/内層部の比は刺激前1.38±0.31、2Hz刺激時1.28±0.22、20Hz刺激時1.31±0.15と交感神経刺激による有意な変化は見られなかった。
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