研究概要 |
Werding-Hoffmann病をはじめとする脊髄性筋萎縮症の遺伝的欠失が染色体の5q.11.2-13.3にあることが1990年に明らかにされたが、何故、脊髄性筋萎縮症が著しい臨床的多様性を呈するのかは依然として不明であり、その神経化学的背景を明らかにするために、髄液の分析を行い従来の結果と併せて検討した。 脊髄性筋萎縮症の診断は、臨床症状・筋電図・筋生検所見に拠り行い、遺伝子解析を参考した。脊髄性筋萎縮症(type-1.2.3.)の患児の髄液を家族の同意を得た上で腰椎穿刺にて採取し、第二分画の0.5mlを分注、測定まで70度に凍結した。モノアミン及びその関連物質、即ち、serotonin (5-HT),dopamin (DA), norepinephrine(NA),tryptophan(TRP), 5 : hydroxytryptophan(5-HTP), 5-hydroxyindoleacetic acid(5-HIAA), kynurenine(KYN), tyrosine(TYR),homovanillic acid(HVA), methoxy-hydroxyphenyl glycol(MPG)等をHPLC+ECD法(Neurochem analyzer)を行い、一回について髄液80μlを直接注入して測定した。対照群としては神経疾患の鑑別診断のため腰椎穿刺を必要としたが、神経疾患のないことが判明した例を年齢を考慮した上でage-matched cotrolとして用いた。 脊髄性筋萎縮症(type-1)では、セロトニン系の代謝産物である5-HIAA, KYNの濃度が対照群に比較して低い傾向にあった。また、ドーパミン系代謝産物であるHVAの濃度も低い傾向にあった。特にKYNは脊髄性筋萎縮症の重症度に相関して低くなる傾向があり、キヌレニン系が脊髄前角細胞の変性に対してneuroprotectiveに働くことが想定された。 今後は、トリプトファン代謝産物の経時的変化を出来るだけ観察し、生理的な年齢による変化か、脊髄性筋萎縮症の病態を反映した変動なのかを検討し、脊髄性筋萎縮症の一端を明らかにしたい。平成9年度は、小児難治性癲癇におけるTRHの臨床効果と髄液モノアミン関連物質の動態との関連についても検討する予定である。
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