研究概要 |
メラノーマ細胞において、ケラチンの発現を認めた報告はこれまで2つにすぎない。いずれもビメンチンとの同時発現がメラノーマの転移能・浸潤能に関与を示唆するものであったが、2種の細胞株での結果であった。 我々はケラチンの発現がメラノーマ細胞に特異的であるか普遍的であるかを検討した。なぜならば上述の報告では細胞の処理溶液に高濃度の塩あるいは界面活性剤を採用しており、この溶液は培養細胞に対しては不適当であることを培養有棘細胞癌の研究から経験したからである(BBRC,182,1440-1445,1992;FEBS Lett,316,5-11,1993)。 8種類の培養メラノーマ株を希薄塩溶液と高濃度塩溶液の2種の処理溶液で抽出・比較したところ、ケラチンの発現において質的な差異は認められなかったが、量的には明らかに前者の画分に多く抽出された。さらに前者においてのみ、どのケラチンサブユニットにも相当しないスポットが8種すべてに検出され、アミノ酸配列からATP合成酵素α-鎖であることが確認できた(J.Dermatol.Sci.,13,219-227,1996)。 メラノーマ細胞の機能(浸潤能や運動能)とケラチンの関係を検討するために、原発巣(1種)、再発巣(2種)それに転移巣(2種)からそれぞれ樹立した細胞株を用い、希薄塩溶液で処理後2D-PAGEとWestern blotで解析した。用いた5種類の細胞株全てに、上述のATP合成酵素のほかにさらに新しいスポットが認められた。アミノ酸配列から新規の蛋白質の可能性が高く、Melanoma related protein-1(MRP-1)と名ずけた。原発巣に比べて、再発巣と転移巣の株でK5ケラチンサブユニットと、ATP合成酵素とMRP-1の両者あるいは一方の相対的発現量が高く、メラノーマ細胞の特異性(浸潤能と運動能)に関与している可能性を認め(FEBS Lett.,in press)、さらに研究を進めている。
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