研究概要 |
精神分裂病の症状発展過程や「脆弱性」の病態を解明する上で重要である分裂病性思考障害と脳構造との関連を総合的に解析することが本研究の目的であり,分裂病性思考障害については,思考障害を量的ならびに質的に評価することが可能な客観的評価方法であるThought Disorder Index(以下TDIと略す)を用いた総合的な把握を試みている.分裂病性思考障害の特性を検討するため,ICD-10を診断基準として用いた精神分裂病者,感情障害者,神経症者,健常者を対象として現在まで30症例に対してTDIとBPRSを施行した.その結果,分裂病群でが非分裂病群と比較してTDI得点が高得点であること,寛解期の分裂病者においてもTDIのよって微細な思考障害が評価され得ること,分裂病群の思考障害の質的パターンが非分裂病群とは異なり,解体,特異的言語表現といった系列の思考障害が特異的であることがわかっている.現在行っているTDIとBPRSとの間の統計学的検討の結果を加えた上で,この結果について平成9年5月の日本精神神経学会総会において発表する. さらに,頭部MRI画像のデジタルデータをコンピュータ処理し,脳構造の体積を計測することも行っていく予定であるが,これまでに一卵性双生児の分裂病不一致例について,TDIを用いた思考障害の評価とともにMRIを用いて脳体積の比較を行っている.その結果,非発症例と比較して発症例では,TDI得点が高得点であり,左右前頭葉,右側頭葉の体積減少,左側頭葉体積の増大傾向が認められた.これより,分裂病の発病には前頭葉と側頭葉の複雑な構造変化が関与しており,分裂病性思考障害とこれらの脳構造との間に何らかの関係があることが示唆された.次年度は,分裂病群,健常対照群に対してTDIによる思考障害の評価とMRIによる脳構造の計測を行い,得られたデータの相互関係,臨床変数との関係を分析する予定である.
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