研究概要 |
本研究の目的は、発達・加齢の神経生理、ならびに痴呆、健忘症候群、精神分裂病の病態や成因に対する海馬周辺構造の関与の解明に資するために、海馬体に存在する小髄鞘構造である表在髄板(superficial medullary lamina,SML)を生体脳において磁気共鳴画像MRIを用いて定量することである。この構造に着目した理由は、SMLが、(1)脳機能発達の形態学的指標である髄鞘化が思春期以降も進行することが解剖脳で唯一定量されている脳部位であること、(2)海馬体と他の皮質領野を連絡する線維群からなり、記憶、情動・認知に関わる重要な連合機能を担っている可能性が考えられること、による。 MRIによる定量の困難は、表在髄板が冠状断面積で平均2.2mm^2(0-10歳)〜6.5mm^2(50-60歳)(Benes et al.,1994)と極めて小さな構造である点にある。本研究では、この困難を克服し、SMLを定量化するために以下の計画を立てた。(1)SMLの良好な視認性を得るためのMRI撮像法の確立、(2)MR画像上でSMLの定量、(3)死後脳の連続組織標本を用いたSMLの定量。 平成8年度における本研究の到達点は、(1)MRI撮像条件の選択には、まず死後脳標本を用いて、同一脳での条件比較を行なった。次に得られた資料に基づき健常ボランテイアによる最終条件の確定を行なった。高いS/Nを得るための撮像時間の延長はmotion artifact出現を招き被験者の負担を増大させる。これらのtrade offから3D-FLASH(Siemens,Magnetom Vision 1.5T)を用いた約15分間の全脳撮像法を選んだ。現在、この条件に従った資料の収集を開始している。(2)MRI信号に基づくMR画像上でのSMLの同定法の原理を発見したので、現在これに基づく定量法の開発中である。(3)一側半球の海馬全長にわたる連続組織標本を作成した。 次の平成9年度では、生体脳のMR画像及び組織標本におけるSMLの定量と比較を行なう予定である。
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