慢性腎疾患に共通の進行因子としてネフロンあたりの溶質(蛋白や塩分)の過剰負荷が広く認められている。そのメカニズムとして過剰濾過仮説が提唱され、腎疾患に対する食事療法の理論的根拠になっている。ネフロンあたりの過剰濾過モデルである腎摘ラットでは、必ず糸球体血管極から始まる巣状糸球体硬化をおこすが、なぜ血管極から異常がおこるのかについては明らかでない。糸球体血管極は傍糸球体間質を介して緻密斑につながっている。最近我々は、浸透圧感受性遺伝子であるミオイノシトール輸送体(SMIT)が緻密斑に強く発現することから、傍糸球体間質の浸透圧が高くNaCl再吸収に依存して変化することを示唆する結果を得た。腎摘ラットでは持続的な傍糸球体間質の高浸透圧状態にあるとの仮説を検討するため、SMITの発現をin situ hybridization法により検討した。Sham手術を行ったコントロール群に比し腎摘群では、ヘンレ上行脚及び緻密斑におけるSMITの発現が増加した。この発現はフロセミド投与により抑制された。すなわち、腎摘群においてヘンレ上行脚及び緻密斑部分に高浸透圧ストレスが負荷され、フロセミドによりそれが抑制されると考えられた。尿蛋白はコントロール群に比して腎摘群で著明に高値で、フロセミド投与により有意に低下した。局所の高浸透圧ストレスが、糸球体硬化の進展に関与しているとすると、TGF-βなどの増殖因子やフィブロネクチンなどの細胞外基質が誘導されると考えられる。腎摘群では、髄質外層と皮質にTGF-β、フィブロネクチンの発現誘導を認めた。糸球体では血管極と思われる部位にTGF-βの誘導がみられた。これらのシグナルはフロセミド投与により著明に抑制された。以上のように、これらの発現の局在と誘導のパターンはSMITと類似し、誘導のシグナルとして浸透圧ストレスの関与が示唆された。
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