我々は糸球体内マクロファージが腎炎の増悪・進展に関与する可能性を報告した。したがって、マクロファージの機能制御は腎炎治療において重要と考えられる。そこで、本年度は、マクロファージの機能を抑制するサイトカインの一種であるIL-10に注目し、さらに炎症局所へのサイトカイン遺伝子の発現効率を上げる目的で、抗ICAM-1抗体を結合させたリポソーム(immunoliposome)にIL-10遺伝子を包埋し、培養糸球体細胞へのin vitro transfectionおよび実験的腎炎モデルへのin vivo transfectionを行い、腎症進展の解明と遺伝子治療の可能性について検討する。 1)Immunoliposomeの作成:ヒトIL-10遺伝子を挿入したpCA-plasmid (cytomegalovirus-early enhanceおよびchicken β-actin promoterを有する)を正電荷を有するcationic liposome(正荷電リポソーム)と混合してDNA-リポソームの複合体を形成を試みたが、その効率および安定性にはいまだ問題があり、さらに検討中である。ラット抗マウスICAM-1抗体は、そのハイブリドーマ(YNl/1.7.4)の培養上清ならびに腹水よりアフィニティカラムにより精製中である。 2)培養糸球体細胞へのGene Transfection:cationic liposomeによるマウス培養糸球体細胞へのGene Transfectionの効率をβ-galactosidaseをreporter geneとして検討したところ、10%未満の細胞にのみその蛋白の発現を認め、さらに酵素活性も十分ではなかった。現在、immunoliposomeの作成とともにレトロウイルスを用いた遺伝子導入についても検討中である。 3)実験的ループス腎炎におけるマクロファージの関与について:実験的ループス腎炎モデル(NZB/WF1マウス)においては、32週齢時に蛋白尿の発現および血清中抗DNA抗体の上昇を認め、約40%のマウスが死亡した。その腎組織学的検討では糸球体増殖性変化、免疫グロブリン・補体の沈着、さらに糸球体内ICAM-1の発現と糸球体内Mac-1陽性マクロファージ数の増加を認めた。したがって、本モデルにおける腎症の増悪・進展に糸球体内マクロファージの関与が示唆され、本研究の重要性が確認された。
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