1.モリス肝癌細胞株10^5個を。同系であるバッファローラット雌20匹ずつの、肝被膜下、腎被膜下、及び皮下に局所投与した。4週間後に屠殺した。 (1)無処置群20匹では、全例で全く癌細胞株は生着しておらず、癌拒絶抗原が働いていると考えられた。 (2)2週間前に胸腺内に癌細胞株10^5個を前投与した20匹では、全例で、すべての投与部位での、著明な癌細胞の増殖すなわち腫瘍塊を認めた。しかも、この癌細胞よりDNAを抽出したところ、PCRでY染色体を検出し、腫瘍塊はモリス肝癌細胞株由来であることが示された。 (3)癌関連抗原はすべてin vitroにおけるCTL反応を通して研究されているが、この系はin vitroでの研究を可能とするものであり、今後は癌関連抗原とされているペプチドを胸腺内に前投与して、肝細胞癌の生着性を調べる研究を予定している。以上の所見のみでも、世界で初めて、癌関連抗原が胸腺内で、成熟過程のT細胞により認識され、“negative selection"が誘導されることを示すデータである。 2.モリス肝癌細胞株10^5個を、同種異系であるフィッシャーラット雌10匹づつに投与した(胸腺及び肝腎被膜下)。 (1)無処置群10匹では、全例で腫瘍細胞が胸腺にすら生着せず、Y染色体PCR反応も陰性であった。 (2)FK506 1mg/kgを5日間筋注前処置した群10匹では、全例で、癌細胞が胸腺のみに生着した。こうした胸腺内癌生着ラットの肝及び腎被膜下に癌細胞株を投与しても生着せず、癌細胞株アロ抗原性が示された。 3.ACI→ルイスラット心移植モデル3例で、ドナー細胞胸腺内前投与による生着延長効果が確認された一方、レシピエント及び皮下へのドナー細胞投与後のリンパ節細胞の胸腺内前投与は、逆に拒絶を促進した。これは、CTL胸腺内前投与によるCTL療法効果増強の可能性を示唆している。
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