研究概要 |
食道癌患者に対し、HLA一致同胞リンパ球を用いた特異的養子免疫療法が可能か否か基礎的研究をすすめた。当施設でこの1年間に経験した進行食道扁平上皮癌症例は10例であったが、病巣からの腫瘍細胞株の樹立には1例も成功しなかった。よって当施設ですでに樹立された食道癌細胞株であるYH-1(HLA-A24,-;B-7,60;CW-7,-)を用いて研究をすすめた。1×10^8個のYH-1細胞株からbutanol抽出法(2.5%-1-butanol使用)により可溶化腫瘍抗原(CBE)を抽出し、タンパク量の定量を行った。HLA-A24陽性の3例の食道癌患者のうち2例(症例(1)(2))において、その抹消血単核球(PBMC)を低濃度のIL-2とともにCBEで刺激するとCBE0.1〜1.0μg/mlを至適濃度として有意な増殖活性の増強が認められた。またこれら2例においては、PBMCをIL-2とCBE添加下に長期間(30〜60日間)培養することによりYH-1特異的なCD8陽性の細胞障害性T細胞(CTL)の誘導、増殖が可能であった。 一方これら2例のうち1例(症例(1))にはHLA一致同胞が存在したので、informed consent を得た後PBMCを採取し、患者と同様の方法でIL-2とCBE刺激による増殖活性の増強効果とCTLの誘導効果を検討したが、両方とも有意な効果は認められなかった。以上の結果より、症例(1)(2)ともにYH-1と共通するHLA-A24分子拘束性の食道扁平上皮癌特異抗原に感作されており、それらの症例に対しYH-1細胞株から抽出されたCBEを用いることによりCTLの誘導、増殖が可能なことが明らかにされた。一方症例(1)のHLA一致同胞のPBMCからはこれらの現象は認められず、生体が in vivo において腫瘍抗原に感作されていることが、CTL誘導のための必要条件であることが示唆された。今後症例(1)が癌の再発をきたし化学療法に反応を認めない場合には、患者と同胞の同意が得られればCBEを接種された同胞からCTLの誘導を試み、その養子免疫療法効果を検討していく予定である。 また今後症例数を増やし、同様の検討を行っていく予定である。
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