研究概要 |
細胞内イオン測定装置(CAF-110,日本分光)を用いることにより、ランゲンドルフ灌流装置のラット摘出心心尖部に対し、細胞内Ca濃度([Ca^<2+>]_1)の直接測定が可能となった。平成8年度の実験ではCa持続負荷により高周波数電位の減少と心機能の低下に有意な正の相関がみられることが確認された。平成9年度は、CAF-110により、心筋細胞の興奮収縮連関の重要因子である[Ca^<2+>]_1を測定し、急性心不全における高周波数電位と心機能の変化に[Ca^<2+>]_1の評価加えて検討した。【方法】rat(n=8)の摘出心をランゲンドルフ灌流装置につなぎ、心外膜に微小針電極を装着、加算平均心電計(VCM-3000)を用い、心電QRS波形のroot-mean-square処理により80-300Hzの高周波数成分と、10-20Hzを主成分とする低周波数成分の各電位を抽出した。左室にballoonを挿入し、左室圧の1次微分である-dp/dtと、左室発生圧x心拍数(rate-pressure-products : RPP)を求め心機能の指標とした。左室拡張末期圧(LVEDP)の上昇時を心不全発症の起点とした。蛍光Ca指示薬(fura-2)を摘出心に投与し、蛍光励起強度比(340nm/380nm)によりCa濃度を求めた。Ca負荷はCaCl_2 3mg/minの持続注入を用いた。【結果】Ca負荷開始後、[Ca^<2+>]_1は直ちに上昇を開始したが、心機能むしろやや亢進し、各電位には大きな変化はなかった。負荷開始10〜15分後からLVEDPは上昇を始め、それとほぼ一致して心機能と高周波数電位は低下を開始した。LVEDP上昇後の各電位、心機能諸指標、[Ca^<2+>]_1を検討の対象とした。Ca負荷前の各値を100%とし、LVEDP上昇直前、6分後、12分後をそれぞれ比較すると、高周波数電位は(84%±14→66%±20(p=0.014)→56%±21(p=0.002))と持続して減少したが、低周波数電位は(93%±22→93%±22(p:NS)→93%±27(p:NS))と変化はなかった。心機能の指標として、-dp/dtは( 102%±15→86%±18(p=0.045)→68%±24(p=0.014))と継続して低下し、RPPも(102%±15→80%±24(p=0.005)→60%±28(p=0.004))と低下した。[Ca^<2+>]_1は(122%±10→134%±9(p=0.004)→152%±18(p=0.003))と持続して上昇し、LVEDPも(1.3mmHg±0.4→5.4mmHg±3.0(p=0.007)→11.7mmHg±6.0(p=0.008))と持続して増加した。高周波数電位と[Ca^<2+>]_1は有意な負の相関(r=-0.736,p=0.000)を示したが、低周波数電位は[Ca^<2+>]_1と弱い相関(r=-0.302,p=0.021)がみられるのみであった。【総括】Ca持続負荷による急性心不全では、昨年度と同じく高周波数電位と心機能の有意な相関がみられたが、通常心電図の主成分である低周波数電位ではそうではなかった。急性心不全における心機能評価に高周波数成分を用いることの有用性が再び示されたと同時に、その背景として細胞内Caの増加があることが平成9年度の研究で示された。
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