【目的】脳神経外科領域におけ頭蓋外血行再建(バイパス)術にみられる再狭窄、閉塞においてリン脂質リゾフォスファチジルコリン(lyso-PC)により惹起される血管内皮細胞の機能の変化が、病巣の発生進展に重要な役割を担うものと考えられる。我々はlyso-PCによる転写制御機構を解明した。 【方法・結果】培養ウシ大動脈内皮細胞は10%FBS添加DMEMにて培養し、lyso-PCにて刺激した。Jun、Fos遺伝子群の発現はノーザンブロット法にて、c-Jun蛋白の発現はウェスターンブロット法にて検討した。標識AP-1コンセンサス配列およびJun2TRE配列を持つオリゴヌクレオチド「CN」と抽出核蛋白を用いてgel shift assayを施行。Lyso-PC(無血清培地中15μM)刺激によりJun、Fos遺伝子群の発現は用量および時間依存性に誘導され、この発現はActinomycinDにて完全に抑制、更に半減期の延長は認めなかった。c-Jun蛋白は2時間をピークとし時間依存性に発現し、0.5-1時間ではリン酸化によるバンドシフトを認め、これはリン酸化阻害剤により消失した。gel shift assayではAP-1およびJun2TREのONへの結合増加が認められ過剰の非標識ONを加えることによりバンドは消失した。更にAP-1ではc-Junおよびjun-Dの、またJun2TREではCREB抗体により上方への移動(supershift)が認められた。 【総括】Lyso-PCは培養血管内皮細胞においてJun、Fos遺伝子群の発現を誘導し、更に従来重要とされたAP-1の上流に位置するJun2TREがその転写調節に強く関与する可能性が考えられた。今後はJun2TRE遺伝子のin vivoバイパス再狭窄モデルへの応用を計画している。
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