研究概要 |
本研究は揮発性麻酔薬の作用機構における蛋白チロシンりん酸化の関与を明らかにすることが目的である。昨年度に引き続いてラットを用い、各種チロシンキナーゼ阻害薬のイソフルランのminimum alveolar concentration(MAC)、righting reflex消失への作用についての検討を計画した。昨年度は静脈内投与による変化が認められなかったため、薬物の中枢神経への移行が不十分であった可能性がある。本年度はラット脳室内へ薬物投与用のマクロチューブを留置し、各種チロシンキナーゼ阻害薬の脳室内投与を行い、同時に脳波記録を行った。投与したチロシキナーゼ阻害薬は、typhostin A1,A25,AG126,AG879の3種である。これらの脳室内投与によって脳波ではイソフルランによるburst suppressionのsuppression期の持続時間の短縮や低振幅速波化がみられた。したがって、チロシンキナーゼ阻害薬の脳室内投与はイソフルラン麻酔による中枢抑制を拮抗するかにみえる。しかし、同時に測定した血圧の上昇が認められた。脳波変化が血圧上昇による可能性がある。そこで溶媒であるDMSOを脳室内へ投与し、脳波および血圧への作用を検討した。その結果、溶媒の脳室内投与によっても脳波の速波化、もしくはsuppressionの短縮が見られ、血圧上昇を伴っていた。したがって、本研究ではチロシンキナーゼ阻害薬によるイソフルラン麻酔への拮抗作用が疑われたが、この結果が本薬の薬理作用であるかに関しては現時点では明確ではない。
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