本研究では、「受精したヒト精子の微小管形成中心(MTOC)の機能発現を指標として受精後の精子機能を検定する」という新しい発想による男性不妊の診断法を確立することを目的として以下の研究を行った。今回は、受精したヒト精子の微小管形成中心(MTOC)の機能発現を調べるためにハムスター卵子にヒト精子を媒精する異種間受精法を用いた。この方法を用いる場合、ハムスターの受精卵でヒト受精卵と同様に精子由来のMTOCが機能発現されるかどうかを予め確認しておかなければならない。そこで、まず最初にハムスターの正常受精卵におけるMTOC機能の発現様式を免疫蛍光染色法により検討した。その結果、ハムスターの正常受精卵では機能発現したMTOCが細胞質全体に点在し、ヒト受精卵でみられるような精子中心体による星状体の形成はみられなかった。この結果から、ハムスター正常受精卵ではマウス受精卵と同様、卵子由来のMTOCが機能発現することが示された。次に、ハムスター卵子にヒト健常男性の精子を媒精した異種間受精卵についてMTOCの機能発現を検討した結果、ハムスター正常受精卵と同様の機能発現パターンを示した。このように、マウスやハムスターなど、卵子由来のMTOCが機能発現する齧歯類の卵子では、精子由来のMTOCが機能発現する種の精子を媒精した場合でも卵子のMTOCが機能発現するという興味深い結果が得られ、受精卵におけるMTOC機能の発現パターンは卵子によって規定されることが示唆された。 今回の研究によって、齧歯類の卵子は「異種間受精によるヒト精子のMTOC機能の検定」には適さないことが分かった。しかし、現在まで媒精による異種間受精はハムスター卵子でしか成功していない。従って、今後は齧歯類以外の卵子へ顕微受精法によってヒト精子を異種間受精させ、同様に検討する。
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