未治療前立腺癌症例46例と再燃前立腺癌症例14例を用いて、前立腺癌組織中のエストラマスチン結合蛋白(EMBP)、proliferating cell nuclaer antigen(PCNA)とnm23遺伝子産物を免疫組織化学的に評価しEMBPのもつ臨床的意義を検討した。46例の未治療前立腺癌のうち34例にはLH-RH analogueを、12例にはCisplatinを主体とする化学療法を行い投与前と投与後3カ月の時点における組織中EMBP、PCNAおよびnm23の発現率の変動、血清PSA値の変動ならびに治療に対する反応性を組織学的に評価した。 前立腺癌組織におけるEMBP発現率は腫瘍のもつ組織学的異型度ならびに臨床病期の進行に伴い増加しており、さらに再燃癌でも増加していた。未治療癌ではEMBP発現率はPCNA発現率およびnm23遺伝子産物発現率と弱い正相関を認めた。LH-RH analogue投与症例ではEMBP発現率は治療後有意に減少したがPCNA発現率およびnm23遺伝子発現率に関してはその差は有意ではなかった。さらに治療前のEMBP発現率は血清PSA値の変動に相関したが、PCNA発現率およびnm23遺伝子産物発現率にはこの傾向を認めなかった。他方、治療前のEMBP発現率、PCNA発現率およびnm23遺伝子産物発現率とLH-RH analogue投与による組織学的変化との間には明らかな関連は認められなかった。化学療法投与症例ではEMBP発現率、PCNA発現率およびnm23遺伝子発現率は治療前後で有意な変化を認めなかった。一方、再燃癌におけるEMBP発現率は未治療癌と比較し有意に増加しており、PCNA発現率およびnm23遺伝子産物発現率に関しても同様であった。 以上よりある種の前立腺癌ではEMBPはアンドロゲン依存性を有していると考えられるが、再燃癌でもEMBP発現が認められ、とくに再燃癌においてたEMBPは細胞増殖と関連していると考えられた。
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