我々は平成八年度より、妊婦母体血中に存在する極微量の胎児由来細胞(FC)を効率よく分取する方法の検討を行ってきた。昨年度行ったFC精製の基礎的実験結果から、FCM(flow cytometry)を用いるよりもMagnetic beads(MB)を用いた方が効率的に採取出来る可能性があることが明らかになった。これら結果に基づき、平成九年度は本システムを用いて実際に妊婦ボランティア末梢血からのFC採取を試みた。 1.Nested-PCRにおける検出感度の基礎実験 今回FISH法を用いての客観的なscanning作業が困難を極めたため、nested-PCR法を用いてY-chromosomeの特異的バンド(Loらが報告したY chromosome特異性の高いprimerによる240bp領域そして198bp領域)を確認することでFC採取の確認を行った。実際にFC検出を行う前に、未産婦女子の有核細胞集団10^6個中に、同種血液型の男子有核細胞を5個から10^3個まで混和していき、Y-chromosomeの確認が出来るかの検討を行った。その結果、2nd PCRまで行うことにより10^6個中5個までの微量細胞検出が可能であった。 2.胎児が男児である妊婦ボランティアからのFC検出実験 FCを客観的に証明するマーカーが存在しない現状から、我々はまず確実に胎児が男児であるボランティア妊婦からのY-chromosome陽性細胞の検索を試みた。検討した9例のうち7例より特異的バンドの検出を認めた。検出出来無かった2例のうち1例はDNA抽出が不十分であることが明らかとなり、残り1例はnested-PCRの検出感度以下のFC数しか存在しなかった可能性が考えられた。従ってこのシステムでの検出率は8例中7例(87.5%)であった。 3.胎児性別不明である妊婦ボランティアからのFC検出実験 われわれは2.の結果を踏まえ、次の段階として胎児性別が不明である時期での妊婦末梢血からの胎児性別判定試験を行った。本システムを用いて男児と判定した内、実際に男児であったのが7例中7例(100%)、女児と判定した内、実際に女児であったのが7例中4例(54.1%)であった。本システムでは偽陰性を一例も認めず、7例中3例(42.9%)に偽陰性を認めた。 我々のFC検出システムでは特殊な技術や高価な機器を必要よせず、妊婦全期間を通じてFC検出が可能であった。疑陰性などの解決が必要であるが、簡便かつ確実な非侵襲性出生前診断法として今後この方面での臨床応用が期待できると思われた。
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