研究概要 |
本研究はこれまで未知の分野であった。ヒトにおいての鼻汁の分泌機構の解明が図れる第一歩の研究である。鼻汁の分泌は、鼻粘膜上皮杯細胞に比べ鼻腺細胞がより多く担っていると考えられている。しかしこれまでヒト鼻粘膜においては、培養上皮細胞においての研究が主であり、鼻腺細胞の研究は皆無であった。今回、ヒト気管粘膜下腺細胞の手技を応用し、ヒト鼻腺細胞の培養法法を確立した。ヒト培養鼻腺細胞は以下の特徴を持つ。 1)形態的には、分泌顆粒の発現があり、漿液性と粘液性の両方の成分を持っていた。更にタイトジャンクションの存在が認められた。 2)電気生理学的に、粘膜側にはNaチャンネルとClチャンネルが、漿膜側にはNa-K-2Cl contransporterとNs, K-ATPaseの存在が認められた。 3)アセチルコリンの粘膜側及び漿膜側投与により細胞内Caの上昇が起こり、引き続いて粘膜側からのCl分泌が認められた。 更に臨床的に慢性副鼻腔炎に有効なマクロライドの効果をヒト培養鼻腺細胞において検討した。エリスロマイシン(10^<-4>M)の前投与はアセチルコリン(10^<-5>M)によるCl^-電流の上昇に著明な抑制効果が認められた(68.5±9.4%, n=4, means±SE)。更にエリスロマイシン(10^<-4>M)の前投与はアセチルコリン(10^<-5>M)による細胞内濃度の上昇に著明な抑制効果が認められた(42.9 4.4%, n=5)。以上より、ヒト培養鼻腺細胞においてEMはCl分泌に抑制的に働いた。慢性副鼻腔炎の病態においてエリスロマイシンが鼻腺細胞よりの鼻汁分泌を抑制することが示唆された。
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