【目的】:成熟哺乳動物において、眼窩内で切断した視神経に自家移植した末梢神経は網膜神経節細胞の軸索再生促し、その主要な標的である上丘において機能的シナプスを再形成する。今回、この末梢神経移植動物における視覚の機能回復について脳波覚醒反応を用いて調べた。 【方法】:生後8-9週齢の成熟ラット(Long-Evans)の一側視神経を麻酔下に眼窩内で切断し、坐骨神経を縫合した。1-8週後、再び麻酔下に移植神経の遠位端を上丘および視蓋前域に架橋するとともに、他側視神経を切断した。さらに5-8カ月後、再度麻酔下に脳波記録用の慢性電極を感覚運動野および視覚野皮質に植え込んだ。1週間の回復期間の後、動物の徐波睡眠期に、持続の異なる(20-740msec)光刺激を呈示し、刺激後10sec間の脳波変化を調べた。 【結果】:正常動物では8例の全てで光刺激によって脱同期反応が生じたが、両側視神経切断後には脱同期反応は消失した。末梢神経移植動物においては6例中5例で光刺激による脱同期反応が生じたが脱同期反応の閾値は600msと、正常動物の152msに対し有意に高かった。 【考察】:上丘が関与する行動の1つとして、動物の睡眠時に呈示した光刺激に対する皮質脳波の脱同期反応が知られている。上丘の損傷によってこの皮質脳波の脱同期反応は消失するが、皮質視覚野の損傷によっては影響されない。末梢神経移植動物においては視覚入力が、ラットの視覚中枢である上丘へ到達する経路は移植片を介する経路のみなので、これら移植動物で光刺激に対する脱同期反応が得られたことは、視覚情報が移植片を介して視覚中枢へと伝達されたことを示している。
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