【目的】:成熟哺乳動物において、切断した視神経に自家移植した末梢神経は網膜神経節細胞の軸索再生を促し、その主要な標的である上丘において機能的シナプスを再形成する。今回、この末梢神経移植動物における光覚閾につき行動的覚醒反応を用いて調べた。 【方法】:Long-Evans種のラットを用い、切断後の網膜神経節細胞軸索と上丘および視蓋前域とを末梢神経移植手術により架橋した。術後6-7カ月でスクリュー電極を感覚運動野、視覚野および前頭洞に植え込み、1週間の回復期間をおいて脳波記録を開始した。動物をテスト箱に入れて安静放置し、徐波睡眠時に光刺激を提示した。動物の行動をビデオカメラで監視、録画して行動的覚醒反応を記録した。光刺激はテスト箱上60cmに位置するハロゲンランプ(500W)で、第1試行での持続は20msとし、覚醒反応が生じなかった場合には、3分以上の間隔をおき、持続を40ms長くして第2試行を行った。以上の操作を覚醒反応が生ずるまで、あるいは持続が780msになるまで続けた。光刺激のテスト後、音刺激(白色雑音、背景雑音レベル上20dB)を用い同様のテストを実施した。 【結果】:正常動物では8回のテスト中4回で光刺激による行動的覚醒反応が生じた。両側視神経切断後のテストでは光刺激に対する覚醒反応は消失した(3回のテスト中0回)が、音刺激によっては明瞭な覚醒反応が認められた(3回のテスト中3回)。移植動物では6回のテスト中3回で正常動物と同様の覚醒反応が認められた。光刺激の持続時間で測定した覚醒反応の閾値は移植群では393±333msと正常群の230±157msに比べ有意に高かった。 【結論】:以上の結果は脳波の脱同期反応を指標とした昨年度の結果を支持し、末梢神経移植動物において、再形成された網膜-上丘路は視覚情報を伝達するが光覚閾は移植動物で高いことを示している。
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