研究概要 |
ヒト歯肉線維芽(Gin-1)細胞を抗TIMP-1モノクロナル抗体で免疫染色したところ、ほとんどの細胞核がGo期では陰性染色を呈したのに対し、S期では陽性染色を呈したというLiら(NagoyaJ.Med.Sci.58,133-142,1995)の結果を再確認した。そこで、Gin-1細胞を核画分と細胞質画分に分画し、それぞれの画分について抗TIMP-1モノクロナル抗体を用いたWestern blotting、TIMP-1のサンドイッチ酵素免疫測定法、MMPに対する阻害実験によって、このTIMP-1様タンパクがTIMP-1と同一であることを明らかにした。さらに、細胞質画分中のTIMP-1は48時間まで持続的な増加を示したのに対し、核画分中のTIMP-1は24時間でピークを呈し、その後は減少する傾向を示した。この事実は核の単位容量当りで示したTIMP-1濃度が細胞質のそれに比べ有意に高いという結果とともに、TIMP-1が単なる拡散によって核へ移行するのではなく、何らかの機構で積極的に核へ移送されていることを示唆している。また、抗TIMP-2および抗TIMP-3各モノクロナル抗体を用いたWestern blottingにより細胞質画分中には3つのTIMPの存在が認められたが、核画分にはTIMP-1の存在のみが認められた。この事実はTIMP-1のみが選択的に核へ移送されることを示唆している。そこで、ロ-ダミン標識TIMP-1の核内移行を検討したところ、明らかに時間および温度依存性であった。また、核内への移行がATPの添加で促進されるが、apyraseとNEMの添加で抑制される傾向がみられた。Gin-1細胞においては、一連の実験結果から、TIMP-1の核内移行がみられることが明らかになったが、この特異な現象が他の細胞においても普遍的に観察されるかどうかについて検索した。正常細胞としての細胞周期を示すWI-38細胞を用いて検討したところ、上述のGin-1細胞と同じ結果を得た。ところが、腫瘍細胞ではどのような条件下でもほとんどの細胞核が陽性染色を示した。
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