乳歯および永久歯の全歯牙に重度な琺瑯質の実質欠損をきたす遺伝性琺瑯質形成不全症の原因の一つに、アメロジェニン遺伝子の構造異常があるとの報告がある。本疾患の遺伝子診断を実施するにあたり、正常なアメロジェニン遺伝子の塩基配列を明らかにすることは、構造異常の有無を検索する上で必須である。そこで、塩基配列の判明していない領域を解明し、遺伝子診断法の確立、臨床応用を目的に本研究を企画した。 1. ヒトアメロジェニン遺伝子の全塩基配列の決定 申請者は、正常なヒトアメロジェニン遺伝子について解明されていないおよそ50%の領域の塩基配列を既に決定した。他の報告者の結果と本研究を合わせると全領域が決定されたことになる。解明した塩基配列の情報は、日本DNAデータバンクに登録済である。本研究の結果は、遺伝性琺瑯質形成不全症患者のDNA分析結果と比較する際に異常の有無を検出する上で極めて重要な情報となる。また、これまでの検査範囲に比べ、本調査結果を含めたより広い領域についての遺伝子診断を可能にする。 2. 遺伝子診断法の確立および臨床応用 遺伝性琺瑯質形成不全症患者のゲノムDNAを用いて、アメロジェニン遺伝子の全塩基配列を決定した後、正常な塩基配列と比較することにより、アメロジェニン遺伝子の欠失、塩基置換等の異常の有無および遺伝子発現に関与するスプライシングのドナーアクセプターサイトの構造等について検索を行う。遺伝子増幅に必要なプライマーの設計と合成、遺伝子増幅の条件およびPCR法についての技術面での検討は終了し、分析可能な状態にある。現在、数名の患者およびその家族について解析を行っている。なお、試料は末梢血液から抽出したゲノムDNAが望ましいが、口腔粘膜の剥離細胞から抽出したゲノムDNAを用いても検査が可能である。
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