研究概要 |
シクロスポリンA、FK506などの環状構造を有する免疫抑制剤分子のコンフォメーションは結合蛋白質と複合体を形成した状態と遊離の状態とで異なる.この結合型と遊離型との両構造の違いの詳細な検討は活性向上のための分子化学修飾やコンフォメーション変化の制御機構解明のために重要である.そこで,経験的ポテンシャル関数を使った力場計算による環状分子にたいするモンテカルロシミュレーションの新しいプログラムを開発し、このプログラムをまず免疫抑制剤シクロスポリンAのコンフォメーション解析に適用した.シクロスフィリン複合体の結合型と遊離型の構造原子座標をProtein Data Bankから抽出し、それらを初期座標としてそれぞれの構造について結合ねじれ角を変数とする分子シミュレーション計算をおこなった.その結果、合理的エネルギー分布をもつ両ローカル構造が得られ、両構造とも孤立分子として比較的安定な構造であることが分かった.しかし側鎖のねじれ角の分布に大きな違いがある場合があり、溶媒の影響を受けやすい側鎖の存在が明らかになった.免疫抑制剤FK506についても同様な解析を試みたが、その過程で結合蛋白質との複合体形成における水分子の役割が注目され、その検討に移った.蛋白質に強く結合する水分子の構造を予測するプログラムを新たに開発し,Protein Data Bank中の数個のFK506結合蛋白質複合体結晶構造に適応した.その結果FK506分子の複合体形成における水分子の役割を考える重要な手がかりを得たが、さらに蛋白質結合機構などについての詳細な検討を現在続行中である.
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