Hp感染を日常的に予防する試みの手掛かりとして、Hp自体の生理的現象をより詳細に明確にすることが必須である。感染成立に重要と思われる(1)運動性、(2)走化性、(3)定着性に大きな影響を与える鞭毛について、分子遺伝学的手法を用いて解析をおこなってきた。また付着に関与するとされている血球凝集因子HpaAについても検討した。 (1)Hpの鞭毛はFlaAとFlaBの2種類の蛋白質で構成されている。このうち、FlaAは主要蛋白質とされ、鞭毛の形態に欠くことはできず、FlaBは形態には関与していないがこの蛋白質のコード遺伝子欠損株は運動性が野生株に比べて低下する、と報告されている(J.Bacterol.1993.175:3278-3288)。そこで実際にFlaB蛋白質が産生されていない変異株を分子遺伝学的に作製し、この挙動を暗視野顕微鏡下で観察し、野生株に比べ、鞭毛の回転がスムースに行われていない、という実態を明らかにした。つまり、FlaBは鞭毛のなめらかな回転運動にこれをより確実に立証するにはFlaBの鞭毛における局在を明らかにする必要がある。 (2)HpaAは菌体表層に存在する蛋白質でこ赤血球凝集能をもつ付着因子といわれている。そこで、このコード遺伝子を破壊した突然変異株を作製・分離し血球凝集能について野生株と比較した。菌培養液の2倍希釈列を作製し羊保存血に対する凝集能を検討した結果、hpaA突然変異株は野生株より50-100倍の菌量がなければ凝集しておらず、明らかな差が認められた。このことより、適当なリガンドを検索することで、野生株Hpの感染を予防できろ可能性が示唆された。 (3)走化性に関与し、直接細菌の鞭毛モーターにリン酸を渡し、回転に影響しているとされるCheYについて、cheY突然変異株を作製・分雑し検討を試みたが、今回は結論に至らなかった。 これらの結果より、(1)FlaAとFlaBの鞭毛中の局在および、FlaBの機能を明確にすることにより、鞭毛の回転運動と感染成立との関連付けが可能になる、(2)HpaAのリガンドが感染予防につながる可能性が高いため、リガンドの検索が必須となる、といった課題が残された。
|