伸張性収縮を過度に反復した骨格筋は筋の静止長が事前に比較して短くなり、そのため運動後では関節を充分に伸ばせなくなることが報告されている。本萌芽的研究は、このような運動後の筋の短縮現象に着目して、関節抵抗の履歴現象を指標にするオーバートレーニング監視法を開発することを目的にする。平成8年度は3年計画の初年度で、対象は大学生男子スプリンター7名である。2つの実験観察を行った。その1はオーバートレーニング状態をシミュレーションするため、短期集中型の夏期5日間合宿練習の前(C前期)および後(C後期)の2期を対象にした。その2は、日常的なトレーニング時期にオーバートレーニング状態が発生するか否かを監視するため、秋季通常トレーニング期(H期)、試合直前調整期(P期)、トレーニング休止期(R期)の3期について、各期の週間スケジュールのうちの週間最終日と48時間休息の明け日に実験観察を行った。関節抵抗の履歴現象に関しては筆者らが考案した受動的トルク測定器を用いた。これは伸膝水平開脚時の股関節の各角度に対応する内転方向への受動的トルク(以下、PTと記す)を測定するものである。また血中逸脱酵素CPKについて定量を行った。 第1実験の結果、C前期の血中CPK値を100%とするとC後期のそれは364.9%に上昇し、同様にはPTはC前期のそれに較べて1.53倍に上昇した。しかし、第2実験ではH期・P期とも、週間最終日における血中CPKの上昇は認められたが、PTの上昇は認められなかった。以上の結果から、オーバートレーニング状態においてはCPK上昇とPT上昇が同時的に観察されるのではないかと推測された。
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