伸張性収縮を過度に反復した骨格筋は筋の静止長が事前に比較して一時的に短くなり、そのため運動後では関節を充分に伸ばせなくなることが報告されている。本萌芽的研究は、このような運動後の筋の静止長の短縮現象に着目して、関節抵抗の履歴現象を指標にするオーバートレーニング監視法を開発することを目的にする。平成9年度は3年計画の中間年度である。対象はレクリエーション的にジョギングを行う成人ジョガ-9名である。2つの実験観察を行った。 その1はオーバートレーニングにたち至る際の通過点とされるオーバーリーチング状態をシミュレーションするため、フルマラソン(42.195km)の前及び回復期を対象(マラソン期)とした。その2はマラソンのオフシ-ズンである5月下旬を対象(対照期)とし、この期の成績をマラソン期のそれに比較する対照とした。関節抵抗の履歴現象に関しては筆者らが考案した受動的トルク測定器を用いた。これは伸膝水平開脚時の股関節の各角度に対応する内転方向への受動的トルク(以下、PTと記す)を測定するものである。また血中ミオグロビン、血中逸脱酵素CPKとLDHについて定量を行った。 その結果、マラソン走破によって、CPK値は118.0IU/1から1017.0IU/1へ、LDH値は391.6IU/1から718.1IU/1へ、Mb値は103.4ng/mlから818.5ng/mlへそれぞれ増加し、40°の水平外転位におけるPT値は14.3Nmから20.4Nmに増大した。これらのうちPT値とLDH値の相関関係が最も高く、PT値は血中LDH値を推定するのに有効な非侵襲的方法の一つではないかと考えられた。
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