研究概要 |
本研究では、遅筋線維と速筋線維におけるクロスブリッジの動きおよびアクチンとの相互作用による生じる滑り力発生機構の違いについて明らかにすることを目的とした。Wistar系雄性ラットの遅筋のひらめ筋および速筋の長趾伸筋から、スキンドファイバーを調整し実験に用いた。ファンクションシンセサイザー(NF回路設計ブロック社製・1940:既存設備)からの信号によりサーボモーター(General Scanning社製・G120D:既存設備)のアームに500Hzの正弦波を与えて筋線維を長軸方向に振動させ、張力計(AE801)からの出力を500Hzのバンドパスフィルターを通した後、その振幅から筋線維の硬さおよびアクチンに結合したミオシンクロスブリッジの数やその状態などを測定・評価する。この記録は、デジタルリアルタイム・オシロスコープ(ソニー・テクトロニクス社製・TDS380)によりパーソナルコンピューター(NEC社製・PC-9821AP:既存設備)のハードディスクの直接記録した。速筋線維における単位スチッフネス当たりの張力は、遅筋線維のものとは大きく異なることが示された。すなわち、遅筋線維のクロスブリッジの化学-力学反応は速筋線維のものとは異なることが予想された。そこでクロスブリッジとアクチンとの間で生じる化学-力学反応を修飾する2,3-butanedione monoxime(BDM)の遅筋線維および速筋線維のスチッフネス-張力関係に及ぼす影響を検討した。さらに、thin filamentとthick filament間の距離を変化させた時の張力やスチッフネスの動態についてもあわせて検討した。BDM(5mM)は、速筋線維および遅筋線維のカルシウム感受性を低下させた。20%(v/v)のDexstranによりlattice spaceを低下させた場合、速筋線維ではpCa4.0でも発生張力はきわめて低かったが、遅筋線維では速筋線維に比べその影響は小さかった。以上の結果より、遅筋線維と速筋線維におけるクロスブリッジによる張力発生機構には、差異が存在することが示唆された。
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