研究概要 |
本研究では、遅筋線維と速筋線維におけるクロスブリッジの動きおよびアクチンとの相互作用による生じる滑り力発生機構の違いについて明らかにすることを目的した。Wister系ラットの遅筋のひらめ筋および速筋の長趾伸筋から、ケミカルスキンドファイバーを調整して実験を行った。サーボモーター(General Scanning社製・G120D:既存設備)により500Hzの正弦波で筋線維を長軸方向に振動させ、張力計(AE801)からの出力信号の振幅から筋線維の硬さおよびアクチンに結合したミオシンクロスブリッジの数を評価した。この記録は、デジタルリアルタイム・オシロスコープ(ソニー・テクトロニクス社製・TDS380)によりパーソナルコンピューター(NEC社製・PC-9821AP:既存設備)のハードディスクの直接記録した。2,3-butanedione monoxime(BDM)が遅筋線維と速筋線維の張力、硬さおよびカルシウムに対する感受性に及ぼす影響および細いfilamentと太いfilament間の距離(LS)を変化させた時の張力およびスティッフネスの動態について検討した。BDMにより筋線維の最大等尺性張力は、速筋線維で30.3±4.0%(n=11)、遅筋線維で19.8±2.6%(n=10)の低下が認められた。筋線維の硬さ当たりの張力の抑制は、遅筋線維に比べて速筋線維で大きかった。Polynlpyrroidone(PVP、K-30、濃度0-25%)をインキュベーション溶液に添加することで浸透圧を高めてLSを低下させた。LSは、速筋線維、遅筋線維ともに弛緩状態では、PVP濃度の増加に伴い低下する傾向を示し、両筋線維間に差は見られなかった。一方硬直状態では、LSの低下は弛緩状態に比べて有意に小さかった。この時、遅筋線維は速筋線維に比べて、LSの低下が抑制された。またPVP無添加の条件下で、弛緩状態から硬直状態にに移行するとき認められるLSの増加は、速筋線維に比べて遅筋線維で顕著であった。以上の結果は、遅筋線維と速筋線維における硬直クロスブリッジの力学的特性に差異があることを示すものであり、クロスブリッジの化学的状態遷移に両筋線維間に差異があると考えられた。
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