1.従来、カシュウイモ(dioscorea bulbifera)は熱帯原産とされてきたが、カシュウイモのなかには野生型と栽培型の二種類あり、野生型は熱帯原産であるものの、栽培型は温帯原産と考えられる。これは、琉球列島には野生型のみが見い出され、栽培型は調査した限りでは見い出されないことによる。 2.熱帯系のヤマノイモ類のうちダイジョは、琉球列島において儀礼的にきわめて重視されており、南方島嶼から北上した根栽農耕文化の流れが、少なくとも奄美諸島までは到達していると考えられる。 3.四国での事例を集成した結果、栽培型のカシュウイモは山間地域では、正月、十五夜、亥の子などの儀礼において重視されているものの、栽培型のカシュウイモが温帯系とみなされる以上、南方島嶼系の文化の系譜を引くものとは考えられない。したがって、その文化の系譜が本土まで到達したとは考えにくい。 4.四国南部の沿岸部には熱帯系の野生型のカシュウイモ(ニガカシュウ)が広く分布し、かつては水さらしを行い利用していたことを知ることができた。したがって、少なくとも四国では熱帯系のカシュウイモの利用が行われ、それに覆いかぶさるように利用法の容易な温帯系のカシュウイモが展開したものと考えられる。 5.栽培型のカシュウイモは、古い文献を探索した結果、北は東北から南は九州まで栽培されていたと推定され、したがって伊豆諸島、四国、宮崎県椎葉村などで利用されてカシュウイモは、かつて広く利用されていたものが現在に至るまで残存していたものとみなしたほうが妥当であると思われる。 6.栽培型のカシュウイモは、文献による限り江戸時代まで盛んに利用されており、なぜ急激にその利用がすたれてしまったかを明らかにすることが今後の課題である。
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