1. 四国、静岡、伊豆諸島(三宅島)などのカシュウイモとニガカシュウの分布状況、利用状況を調査した結果、カシュウイモは基本的にブナ林帯において栽培、利用されているものの、一部照葉樹林帯(高知県北川村、三宅島など)に及んでいることが明らかになった。特に高知県の北川村ではカシュウイモとニガカシュウが存在し、ともに栽培遺物であるものの、両者の違いを認識し、カシュウイモを食用として用いている状況である。 2. 高知県におけるカシュウイモの消失過程を集中調査したところ、山間村落においてカシュウイモが利用されなくなったのは、戦後、コウケイ35号と呼ばれるサツマイモの品種が導入されたことが契機であることが明らかになった。それ以前のサツマイモは、収量が多くなかったとされ、依然としてカシュウイモの優位が続いていたという。また、カシュウイモは痩せた土地でも栽培でき、連作しても障害を起こさないものであった。 3. イモ類の年中行事における儀礼的利用を全国的にみれば、西日本のサトイモ類に対して東日本のヤマノイモ類という構図を描くことができるが、西日本においては、標高の高い山間村落においてカシュウイモなどを中心とするヤマノイモ類を儀礼的に利用していることが明らかになった。このことは、西日本でも標高の高い地域や東日本などの比較的寒冷な地域では、恐らく初期に導入されたサトイモ類は充分に育たないため、カシュウイモやヤマノイモなどのヤマノイモ類をサトイモ類の代用品として利用したことを示すものと考えられる。
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