研究概要 |
河床礫や段丘礫の粒径分布から古水文量を復元する試みは,1970年代から行われてきた。しかし,近年の河川砂礫運搬機構研究や河川地形形成に関する実験的研究が進展するにつれ,かつての古水文量復元方法の精度に重大な疑義がかけられるようになった。 Kurashige (1996)は,混合粒径砂礫の粒径と河川剪断応力の間の関係を現状でもっともよく記述するKomar's Equationに立脚して河川剪断応力を推定する方法を考案した。この方法で計算した値と従来の古水文量推定値との比較により,従来法による推定値は著しい過大評価の可能性があることが判明した。 しかし,Kurashigeの方法を古水文量復元に応用するためには,まず現在の河川河床礫の粒径組成から推定できる河床剪断応力と,その河川のもつ剪断応力との比較を行い,これをもとにKurashigeの方法の信頼性を検討する必要がある。その第一歩として,歴舟川尾田橋測水所付近の源河床礫の粒径組成を計測し,これから推定した剪断応力と,ここで得られた水文統計量から計算した剪断応力とを比較することとした。ここの河床礫は,細礫部・中礫部・大礫部の3種類に大別できるので,この3種類の堆積物の分布状態をスケッチすると同時に,これらの粒径組成をふるい分け法により計測した。計測に際し,河床表層部砂礫は細粒部分の分別運搬等の影響を受けているものと考え,表層砂礫とその下部層の砂礫とに分別した。これらの計測を1996年6月と10月の2回行い,ふるい分け試験に供した砂礫の総量は約2500kgに及んだ。 その結果,特に大きな礫を含む場所を除き,下部層礫粒径組成から復元した剪断応力は,細礫部・中礫部・大礫部のいずれにおいても,ほぼ等しい値であった。これは,大礫部の堆積物では砂以下の細粒分を多く含み,それに対し小礫部堆積物は細粒分含有量が小さいためである。しかも,復元した値は,この河川の高水時の剪断応力に近い値であった。
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