今年度は、教師の実践的知識の獲得という観点から、初任者を対象に2つの研究を行なった。 第1の研究は、初任者の授業を中心とした学校生活上の問題を明らかにし、その問題解決のための手立てと情報源を探ることにより、初任者の課題解決様式を明らかにすることである。これに関しては浅田(1994)が開発した授業日誌方式を用い、その記述をKJ法によりカテゴリー化、出現頻度を計測した。その結果、初任者は授業運営、特に学級経営面を課題として捉え、その後授業内容面、そして再び学級経営面へと課題が遷移していることが明らかになった。その課題解決に際しては、4月からの授業経験よりも教師自らが受けてきた授業での経験に基づく場合が多いようであるが、解決の手立ての種類は多くはない。初任者の場合、授業経験から実践的知識を獲得するスキルを十分に発達・成長していないことが考えられる。 第2の研究は、実践的知識の獲得に影響すると考えられる指導技術の熟達化を明らかにすることである。同一初任者を対象に、毎月国語の授業をビデオ録画し、それに基づき授業プロトコルを作成した。このプロトコルに出現する質問を抽出し、質問後の指名もしくは教師の発現までの時間を計測した。指導技術が熟達化するということは、質問後に「待ち」ができるということを従来の研究知見から想定したのである。分析の結果、1学期間では変化は見られなかった。また、待ち時間も平均6〜7秒であるが、分布を見てみると1秒未満が最頻値であり、初任者はほとんど待ちができていないことが明らかになった。同時に、質問を閉じた発問等8つに分類してみると、出現する発問は閉じた発問、など3つにほぼ限定され、ゆさぶり発問などはほとんど用いられていなかった。このことは、初任者が子どもから授業に関わる情報を引き出す手立てを持ち合わせていないことを示唆するものであると思われる。
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