本年度は、不完全な知識を創出するメカニズムである知識コンバージョンKCを実現するための理論的検討を行い、さらにその要素技術・基盤技術を整備した。具体的な研究テーマは以下の通りである。 1)知識ネット及び推論系の構成 KCを考察する上での土台となる知識表現と推論について検討した。完全知識、及び不完全知識を各々、ファクト・完全ルール、及び例外を許容する不完全ルールとして表されたルール型知識表現からネットワーク型知識表現(知識ネット)へのトランスレータを作成し、ト-クン伝播による推論方式を定式化した。 2)知識の整合性の検証についての考察 同一の情報源に対する種々の知識表現体系間での整合性を情報の不完全性という観点から比較検討した。特に、メディア表現と記号表現における不整合がどのように出現するかを、現実世界の情報源と見なし得る地理情報を題材にして分析・整理した。 3)知識の階層性についての考察 完全な知識と例外を含む不完全な知識の混在する環境化での推論を、例外並びに例外間の階層関係を特定するexc表現を導入することにより実現した。exc表現では、例外は2種類に分類され、各例外について個別の表現法を定義することにより、常に結論集合を一意に定めることが可能である。さらに本研究では、例外の誘発する矛盾に着目し、例外間の階層を獲得することにより、人間の介在なしに既存のルールからexc表現を自動生成する手法を考案した。 4)KCと知識洗練化の統合についての考察 ルールの質を変化させるKCと完全・不完全知識に対する知識洗練化の統合手法を提案した。知識の洗練化とは、推論の効率化のために知識集合を再構成することをいい、提案手法では不完全知識の書き換えによって不整合事例に関するルールを削減し、推論効率の向上を実現している。
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