本研究は、放射線の生物影響に関する分子機構を、DNA代謝の局面におけるクロマチン構造の変化として捉え、関連する蛋白質群の相互作用を解明することを目的とする。 分岐構造DNAは、DNA組換えや複製等の代謝過程で形成される中間体の共通構造である。一方、クロマチン上に偏在しその構造形成に寄与するヒストンH1もまた分岐型DNAと特異的に結合することを以前見いだしていた。このことから、クロマチン上において分岐型DNAを介して代謝因子とH1とが競合的あるいは協同的に相互作用することが予想された。そこでアフィニティ・クロマトグラフィーの手法を用いて、H1と特異的に結合するとともに相互の活性を調節する因子の探索を試みた。 主要なH1結合因子として、2つの蛋白質を分離した。部分アミノ酸配列の決定と特異的ポリクローナル抗体を用いた実験から、それらの蛋白質がヌクレオリン(p100)とそのN末端領域を欠失したサブタイプ(p80)であることを明らかにした。 両者はH1に対して同等の親和性を示し、またH1と一本鎖DNAからなる非特異的凝集体から特異的複合体の遊離を促進する活性を有した。しかし、p100が分岐構造に依存したDNA結合活性を示すのに対して、p80ではDNA結合性の顕著な低下ならびにその構造依存性の喪失が認められた。 ヒト培養細胞において、2つのヌクレオリンの存在比は核内で一定していることと、放射線感受性株TK6においては例外的にp80のみを欠失していることを見いだした。これらの知見は、p100型ヌクレオリンがp80型へプロセスされる可能性と共に、p80の形成が細胞の生存には本質的ではないことを示唆する。
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