DNA損傷の形成ならびにその修復過程の現場では、DNAの大きな構造変化が一時的に発生している特異な状態にある。真核生物の場合、この変化はDNAを取り巻く染色体(クロマチン)構造の局所的な変動として現われるはずであり、その際にはクロマチン構造形成にかかわる蛋白質とDNA代謝因子との相互作用が想定される。この仮説の実証に迫るため本研究では、DNA損傷、特にDNA鎖切断の代謝に関与するクロマチン構造制御因子の同定を目指した。まずDNA切断あるいはその代謝中間体として考えられる変性もしくは分岐をもつDNA構造に着目し、それらと親和性をもつ因子の探索を行った。最も豊富に存在するDNA分岐結合蛋白質はクロマチンの基本構成因子であるヒストンH1であった。特にこれは十字型の分岐構造に対して最も強い結合性を示した。他の研究グループもまた、クロマチンの構造変換に関わる因子の幾つかが十字型DNAに対して特異的に結合することを見い出していた。一連の発見は、十字型DNAがクロマチンDNA構造と類似しており、それへの結合性を指標にクロマチンと相互作用する蛋白質を効果的に選択しうること示唆していた。その後、ヒストンH1に親和性をもつヌクレオリン蛋白質がやはり分岐型DNAへの結合することと、それがDNA構造に依存したヒストンH1の非特異的な凝集体形成から特異的産物を遊離させる活性をもつことが認められた。この結果は、クロマチンの適切な構造維持にシャペロン様(介添え)活性が寄与することを示している。さらに幾つかの主要な核内蛋白質に、分岐型DNAへの特異的な結合能があることが確認された。十字型構造DNAに結合するというそれらに共通の性質は、その標的を巡って競合的あるいは協同的な様式で互いに影響しうることを推察させる。特筆すべきことは、それらの中にDNA二本鎖切断修復に関連する因子が含まれていたことである。この知見は、DNA鎖切断の修復磯構もまたクロマチン構造の変化と連動している可能性を支持するものである。
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