研究概要 |
生命に誕生において、まずRNAのみからなるRNAワールドが原始地球上に存在し、その後このRNAワールドに蛋白質が取り込まれたするシナリオが有力なものになりつつある。しかし、この蛋白質の取り込みについての道筋に関してはなんら説得力のある仮説は提唱されていない。本研究は、このプロセスについて、現在の生物の分子機構の解明を基盤としてアプローチした。 蛋白質の合成は、現在の生物では、巨大な蛋白質-RNA複合体であるリボソームで行われるが、そのペプチド鎖形成反応を行う分子(ペプチジルトランスフェラーゼ)が、リボソーム蛋白質であるのか、リボソームRNAであるのかは、未だ不明である。1992年に、H.Noller(米)のグループは、除タンパク処理を行ったリボソームでもペプチド鎖形成反応をすることを見いだしたが、この除タンパク処理は不十分であり、RNAがペプチジルトランスフェラーゼ活性を持つという結論には到達できなかった。本研究では、まずリボソームRNAを試験管内での転写反応によって合成し、完全に蛋白質のないシステムを構築した。このシステムを用いて、様々な条件を検討した。その結果、23SリボソームRNAの構造を組み直すフォールディング処理を行い、また界面活性剤であるSDSを添加することにより、ペプチジルトランスフェラーゼ活性を発現させることに成功した。この結果は、リボソームRNAがペプチジルトランスフェラーゼそのものであることを示す最初の実験的証拠となった。また,リボソームRNAの蛋白質合成活性の発現の反応機構を詳細に検討した。その結果,リボソーム同様に二つ以上のtRNA結合部位を持つこと,またtRNAはtを適切な位置に固定することにより,自発的な反応を引き起こすことを,明らかにした。これらの研究は,RNAワールドから蛋白質合成系が誕生する過程を明らかにする上で,重要な知見となるものと期待される。
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