既知のシアリダーゼに抵抗性を示すKDN(デアミノノイラミン酸)残基を特異的に加水分解する酵素(KDNase)は、シアル酸炭素骨格の5位の水酸基とアミノアシル基を厳密に区別する。本研究は、このシアル酸識別機構をKDNaseの触媒反応機構と化学および立体構造的見地から解明することを目的として行い、以下の結果を得た。 1.KDNaseSMの速度論的解析:精製酵素を用い、酵素反応の速度論的解析を合成および天然基質、また阻害剤を用いて行うとともに、基質の加水分解反応におけるKDNの立体配置の経時変化をNMRによって分光学的に追跡した。その結果、KDNaseは、炭素骨格の5位の置換基の認識が厳密であるものの、従来のシアリダーゼ触媒と同様の遷移状態を経由する共通の反応機構が存在することが明らかになった。 2.Sphingobacterium multivorum由来KDNaseSMの分子クローニングと化学構造解析:精製酵素の部分アミノ酸配列を決定する。このアミノ酸配列から推定される合成オリゴヌクレオチド・プローブをもちいて、酵素をコードするcDNAをスクリーニングし、更にそのcDNAの塩基配列決定を行った。現在、ほぼ全アミノ酸配列の推定が成功したところである。明らかにされたアミノ酸配列の範囲内では、既知のシアリダーゼのアミノ酸配列との相同性はあまり見出されていない。 3.KDNaseSMの結晶構造解析を目指した酵素の大量調製:KDNaseは、誘導酵素であり、KDNのαケトシドによって、S.multivorum中に誘導されることが確かめられた。現在、(2)で得られたcDNAから酵素を大腸菌に発現させて、酵素に対する抗体を調製中であり、抗体を用いた1段階精製法を確立を目指しているところである。
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