高ホモシステイン血症の重症患者においては、知能発育遅延、水晶体偏位、骨格異常、痙攣、若年性血栓症など多くの全身性症状が見られる。最近の研究では、軽症でも動脈硬化症や血栓症の危険因子となることが明らかになってきた。本研究では、血管内皮細胞のホモシステイン傷害によって生じる遺伝子発現の変化を調べ、ホモシステインの細胞傷害機構を究明することを目的とした。まず、コンフルエントに達した培養ヒト臍帯静脈内皮細胞を終濃度1あるいは10mMのホモシステインで刺激した。4時間後、細胞からRNAを抽出し、ディファレンシャルディスプレイ解析に供した。その結果、ホモシステイン刺激に伴って発現量が増加する6遺伝子(メチレンテトラヒドロ葉酸代謝関連酵素NMDMC、ストレス蛋白質GRP78/BiP、遺伝子転写調節因子ATF-4及び3つの新規遺伝子)と発現量が減少する1新規遺伝子を同定した。NMDMCの増加はホモシステイン代謝経路が活性化していることを、GRP78/BiPの増加は小胞体内に正常な折りたたみ構造をもたない蛋白質が蓄積していることを示唆する。一方、新規遺伝子の一つを解析したところ、394アミノ酸残基から成る新規蛋白質(RTPと命名)をコードしていた。その一次構造からRTPは約43kDaの水溶性蛋白質であると推定された。ノーザンブロット解析の結果、RTPのmRNAは多くの組織において恒常的に発現していることが明らかになった。今後RTP及び他の新規遺伝子の解析を推進することによって、高ホモシステイン血症の病因解明だけでなく、広く細胞傷害の研究に寄与するであろうという意味で、萌芽的研究としての目的を達成したと考えられる。なお本研究の成果はJ.Biol.Chem.誌に掲載された。また、これを発表した第9回国際血管生物学会議(平成8年9月、米国シアトル)においてYoung Investigator Awardが与えられた。
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